【映画レビュー】「ピーターラビット」は『破天荒なウサギのおはなし』あらすじと感想

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出典元:sankei.com

作品情報

制作:2018年 / 時間:95分 / 国:アメリカ / 監督:ウィル・グラック

今の自分にフラストレーションを感じているそこのアナタ!

ピーター達と一緒につまらない良識や固定概念をぶっ壊してみませんか?!・・・

くらいのノリで作ったのかという映画ですが、面白いので時間があればぜひご覧ください。利得が絡むとどこまでも不条理が続く見本のような映画です。それのどこがおもしろいんだと言われればそうなのですが、私は面白く観れました。

 ピーター率いる一見愛らしい動物たちと、都会から来た青年のバトル(ロワイヤルと付け足したいくらいの激しさです)シーンは、この原作が児童書だとはにわかに信じがたいほどの大迫力です。その描写はもはや『アクション映画』の域に達しています。ピーターラビットの絵本を子供の頃に読み、うっすらと覚えているくらいの認識を持ってこの映画を鑑賞し始めると、間違いなく『ドン引き』します。ましてやピーターラビットを読みたてほやほやのちびっこピーターファンに至っては、号泣するかもしれません・・・。

 ですが、敢えてこの映画を面白い作品としてご紹介したいと思います。

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圧巻の映像美

 ではまず最初に、私が感じたこの映画の一番の魅力からご紹介します。なんといっても素晴らしいのは映像です。実写とCGアニメーションを組み合わせた圧巻の映像美が、冒頭から視界一杯に広がります。イギリスの田園地帯をベースにCGでしゃべり動く動物たちのファンタジーな世界が、臨場感たっぷりに表現されています。

 とはいえ『愛らしい動物達と人間との心温まる交流の映画』と思って観始めるとたちまち足元をすくわれるので気を付けて下さい。

 いや、もちろん結末に用意されているのは心温まる交流なのですが、なんというか、❝荒っぽい❞交流なのです。

出典元:eiga.com

原作は児童絵本

 原作はあの有名な児童書、ビアトリクス・ポターの絵本『ピーターラビットのおはなし』です。イギリスの田園風景を舞台にした絵本集の一つで、好奇心旺盛な仔ウサギのピーターが、農家のマグレガーさんの庭でいたずらをし、見つかって追われながらも無事お母さんの元に帰ってほっとするという冒険を描いています。

 子供の身を案じ、いろいろと口うるさくなってしまうお母さんウサギの深い愛情や、好奇心に負けてお母さんの言いつけを破ってしまうけれど本当はお母さんを悲しませたくないピーターのいじらしい子供心を優しいタッチの挿絵とともに描いています。

映画の大まかなあらすじ

時を経て、2018年。

絵本の世界から映画の世界へと舞台を移し、青年となったピーターは相変わらずのいたずら好き・・・を通り越して過激な言動が観るものを戸惑わせる破天荒なラッパーに成長していました。

ピーターのお父さんをパイにして食べてしまった宿敵、農家のマグレガーさんが亡くなり、ようやくパラダイスを手に入れたと思ったのもつかの間、故マクレガーさんから農場と屋敷を相続した甥のトーマスがやってきます。もちろん黙って引き下がるピーターたちではありません。トーマスから農場を乗っ取り楽園を作るべく、様々なバトルをトーマスに仕掛けていきます。マグレガーさんに訪れたような『最後』を見届けるべく---。

・・・って、え?本気でやってるんだ(亡き者にしようとしているんだ・・・)、とここで一旦『ドン引き』すること請け合います。もちろんトーマスはトーマスで、ピーターのいとこのベンジャミンを袋詰めにして川に流そうとするなど、争いはあっという間に『お互い命がけ』の様相を呈してくるのですが。

ピーターの理想はマグレガーさんの家を乗っ取り、ピーターの唯一の理解者である優しい女性画家ビアや動物の仲間達と楽しく暮らすことです。ですがその目標に向かって取る手段がちょっと、というかかなりダークで、美しい田園に住む愛らしい姿の動物たちという設定とは真逆を行くヒールっぷりを発揮します。

かたやピーターと攻防戦を繰り広げるトーマスは、都会で昇進の夢が破れ自暴自棄になって田舎にやってきたメンタル臨界点な青年。挑発されたらヒートアップする要素満々なキャラです。騒動はあっという間にハードなアクション映画へと様変わりし、手に汗握るバトルシーンへと発展していきます。

だけど、なんだかんだあってもピーターはやっぱりあのピーター(絵本の中の)です。大好きなお母さんを悲しませたくなかったあの頃のまま、今は大好きなビアを悲しませることが一番つらいのです。

トーマスとのシャレにならない争いがとうとうビアの気持ちを傷つけてしまい・・・、ピーターはようやく自分ではない『誰か』のために行動を起こします・・・。

出典元:wowow.co.jp

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映画の感想

 まず、『子供のファンタジー』という先入観を軽々と乗り越える監督、凄いと思います。確かに原作も動物の世界を描いていますので、油断していると容赦なく命の危険に晒される場面が沢山出てきます。仔ウサギだろうが仔ネズミだろうが捕獲する側には関係ないという潔さがあります。それをデフォルメして、更にブラックジョークのオブラートに包んで見せてくれたのが、この映画です。

 正直に申し上げますと、原作の根底にあると私が感じるもの--登場する動物達は、それぞれにその動物の理由や立ち位置があって行動するのですが、子供の頃の私にはその全てを受け入れるのが難しく、シリーズの全巻を読破することは出来ませんでした。その理屈抜きの弱肉強食が挿絵の愛らしさとかけ離れて進行することが多かった為、読み進めては何度も挿絵に立ち返り、なぜ挿絵の穏やかな雰囲気と物語がこれほどまでにギャップを生むのかと苦しんだのを覚えています。まだ字が読めるようになったくらいの幼い年齢であったこともあると思いますが、結局見かねた親が「この本が悪いと思っている訳ではないけど、今のあなたには合わない」と宣言し、「だから続きの絵本は買わない」との決断を下しました。その時は自分に読解力が無いのが悪いのだと考え、理解するよう努めるから続きを買ってくれと頼みましたが、その決断が変わることはありませんでした。「大人になったら読んでみるといいよ」と。

 今ならその決断が理解出来ますし、間違ってはいなかったと思います。勿論原作は素晴らしいものです。決断する側の親も苦労したと思います。

 そんな経緯のある原作でしたので、映画を見てもさほど私は驚かなかったのかもしれません。

 話は逸れましたが色々あって、ストーリー自体は素敵なエンディングを迎えるわけですが・・・、あれだけ絵本の世界から逸脱し都会を股にかけるアクション映画にしておいて、最後に絵本時代(?)のピーターを彷彿とさせるような『ピュアなピーター』を観せてくれた監督の手腕はやっぱり「凄い!」の一言に尽きます。

 ただ、そうは言ってもピーターがどえらい❝破天荒キャラ❞に成長していたということをお忘れなく。ご覧の際は一旦絵本のことは忘れてください。

 もちろん映画自体は要所要所に笑いや愛嬌がちりばめられ、観ていて飽きない作りのストーリーです。ラブコメでもあり、アクションでもあり、王道のファンタジーでもあり――。ただ、悪ノリしすぎている箇所も。攻撃がキツ過ぎて笑えないシーンがいくつかありました。

 ですが、一波乱ののち成長し、ビアとトーマスの幸せを優先したピーターは最後の最後に『観客の期待を裏切らない』という展開に物語を着地させます。途中の乱暴なシーンを考慮に入れても、この映画は『ハートウォーミングな映画』のジャンルに滑り込みセーフだと思います。

    (以下3枚の写真は本作と関係ありません)

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主な登場人物

●ピーターラビット 

絵本「ピーターラビットのおはなし」に出てくるピーターが青年になったという設定。あどけなかった仔ウサギは既に両親を亡くしており、ついでにディスるのが上手くなっていました!3人の妹たちやいとこのベンジャミンと自由奔放に暮らしています・・・。野望はマグレガー家を乗っ取り優しいビアと動物の仲間たちだけのハーレムな世界を作る事!?

●ビア 

自然を愛し、イギリス屈指の田園地帯、湖水地方に移り住み、ピーター達を優しく保護する女性画家。隣家に越してきた青年と親しくするうちに、いつしかロマンスが。

美しい画家ビアを演じたローズ・バーンは、ピーターの愛らしさにぞっこんなのがひしひしと伝わってくる迫真の演技で、ピーターとトーマスの殺伐とした危機をソフトタッチにかわしてくれています。絵本の中のピーターも魅力的ですが、映画の中のやんちゃなピーターも、ビアの目を通してとても魅力的に描かれています。

●トーマス 

故マグレガーおじさんから屋敷を相続し、都会から家を売り払うためにやって来た青年。ピーター達が敷地に入ってくるのがたまらなく嫌で、あの手この手で追い払おうとしますが・・・。

トーマス役のドーナル・グリーソンは、都会からはじき飛ばされ居場所がなくなった青年が美しい田園の中で幸せを見つけていく過程をユニークに演じています。人との関わりに不器用で、あちらこちらにぶつかる様が観ていて心配になるくらいでしたが、まあ、最後まで不器用なのは変わらなかったのですが『持ち前の不思議なガッツで幸せを掴む』様子を見事に演じ切っています。

次回作に期待! 

 フィクションの中でいったん動物が服を着、喋るとたちまち紳士淑女はかくあるべきというような秩序と道徳感が要求されがちですが、この映画はそんなこと全く気にしていません。人間が作った縄張りやルールはウサギには関係ない・・・特にディスるのが得意技のウサギには・・・。これを笑えるか腹ただしいと思うか、評価が分かれるところだと思います。

 原作でも、ヒエラルキーの下の立場の動物が上の立場の動物を出し抜くというシーンもあります。その時情は介在しません。お互い命がけというスタンスを貫くのです。

 この作品の根源にあるものが、原作とかけ離れているとは私は思えませんでした。

 擬人化すると『若気の至り』という言葉で収まりきらないくらいのやんちゃで凸凹だらけの言動のピーター。

 ですがその未熟さが〝変化、あるいは成長〟への希望も残しているようで、ウサギではありますがピーターの中に『人間臭さ』を感じずにはおれません。というより人間臭さがプンプン漂ってきます。それが監督の思うつぼなのでしょう。つい次回作に期待してしまいます。

 たまたまレンタルビデオで視聴しましたが、映像の美しさは圧巻です。続編の『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』の公開が待たれます。

 今回はビアに失恋した格好となったピーターですが、次回作で、もしまた恋愛をするのであれば今度こそ成就しますように!

 そしてあとちょっとだけ、性格が良くなっていますように。

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