【目次】
作品情報
制作:2006年 / 時間:108分 / 国:アメリカ / 監督:ショーン・レヴィ
「夢見てないで仕事探した方がいいかも」
これを親に言われたなら反発心がムクムク湧いて出て、衝突するかもしれませんが・・。つぶらな瞳の愛らしい我が子に言われたら?
――――切なすぎます・・・。映画の中の登場人物の会話ではありますが、いたたまれない状況に腰が浮いて、直視しづらい展開ですらあります。
いきなり映画の冒頭から主人公の厳しい現実を観させられて重苦しい気持ちにはなりますが――。
どちらかというと『ダメおやじ』だけど愛情は山ほどある、という救いのあるキャラなのでご安心下さい。息子を安心させたい一心で直ぐに職探しに乗り出します。
この映画は『息子の為に頑張るお父さん』をフィーチャーした物語です。
勿論ラストに至るまでには幾多の試練が主人公に課せられています。
舞台となるのは新しく紹介された職場。
それは、次々と人が辞めていくといういわく付きの自然史博物館でした。
一見普通に見えるその博物館は、やはり一筋縄ではいかない秘密が隠されており…。
冴えないお父さんだった主人公が、次々と降って湧くトラブルをアクロバティックな力技で解決し、ついには世間も驚く『ヒーロー』に――ラストでは息子に胸を張って仕事を語れる『頼れるおやじ』へと変身します・・・。
ーーこれ以上詳しく説明するまでもなく、もうお察しのことと思いますが、この映画は単純明快なサクセスストーリーであり、子供も安心して観ることが出来る王道ファンタジーです。
出てくる悪人も、さほど活躍の場を与えられず退散させられてしまいます。言ってみればちょっと子供ダマし感のある物語と言えます。でも、だからこそこの映画は、お父さん世代にぜひお勧めしたい作品と言えます。
何をやってもうまくいかない――人生どん詰まりの代名詞のようダメおやじが、チャンスを得て幾つもの試練を乗り越え、〝イケてる仕事〟と〝息子の信頼〟の両方をゲットする――。
これが大人にとってのファンタジーじゃなかったら何なのか、というくらい『都合の良く出来た』ファンタジーなのです。こんな風に楽しくヒーローへの階段を上れたら、さぞやスカッとすることでしょう。この物語は大人の、大人による、大人の為の(主にお父さんの)ファンタジー映画なのです。
あらすじ
ラリーは10歳の息子ニックに会うのだけが生きがいになっているバツイチ無職の中年男性。仕事に関してはいつか成功すると夢見て呑気に構え、周囲に不安を与えてばかりいます。アイデアは豊富で色々な事業に手を付けるのですが、堪え性がないのかすぐに放りだしてしまい、長続きしません。
そんな姿に見かねた元妻エリカは、悪影響を心配して息子とラリーを引き離そうとします。
慌てたラリーは、得意の口八丁で夜勤の警備の仕事を得ますが・・・。
――就職先は、来館者が低迷し経営難に陥った自然史博物館。人員削減の為3人いた警備員をクビにし、ラリー1人を雇ったのでした。
昼間に訪れるとごく普通の博物館。だけど夜になると・・・。
ありとあらゆる展示物が動き出し、問題を巻き起こしてラリーをへとへとにさせます。
勤務初日でブチ切れたラリーは、「今日でおしまいだ」と捨て台詞を残し、立ち去ろうとしますが――。エリカの再婚相手であるドンに連れられて美術館にやって来たニックと鉢合わせになり、その嬉しそうな表情を見ると仕事を辞めたとは言えなくなります。
2日目の夜――。初日の失敗から万全の対策で警備にあたるラリーでしたが、やはり展示物達の想定を超えた行動に打ちのめされてしまいます。
もうやめだ!――と立ち去ろうとしたその時・・・夜が明け外を見ると展示物が博物館の外に出てしまい・・・。失くして初めて彼らの大切さに気づいたラリーは、翌日から真剣に仕事に取り組むのでした。
順調に滑り出したかに見えた『博物館の夜』でしたが、ラリーが来る前に警備員として雇われていたセシルら3人組が、良からぬことを考え博物館にやってきます。そして・・・。
窮地に立たされたラリーは、展示物達に呼びかけ、息子のニックとともに3人組の悪業を阻止するべく立ち上がります。
主な登場人物
★ラリー(ローレンス)・デイリー(演:ベン・スティラー)
なかなか仕事が続かないという難点を抱えたラリーは、それが原因で息子に会えなくなるという危機に直面します。一念発起して博物館に就職したものの、動く展示物達に一晩中振り回され、いつものように直ぐに仕事を辞めようとするのですが――。「今回こそ」と父親に期待する息子の為に思い留まり奮闘するうちに、いつしか展示物達とも仲良くなっていきます。
★ニック・デイリー(演:ジェイク・チェリー)
ラリーの息子のニックは、母親とその再婚相手の元で暮らしていますが、ラリーの家に泊まりに行く事をとても楽しみにしている『お父さん大好きっ子』でした。博物館でラリーがクビを言い渡される場面に偶然居合わせ、一時ラリーに不信感を抱きますが、最後には『お父さん』を信じて3人組の悪だくみを阻止します。
★セシル・フレデリック(演:ディック・ヴァン・ダイク)
ラリーが雇われる代わりにクビになった3人の警備員のリーダー。クビになる代わりに良からぬことを考えます。
★セオドア・ルーズベルト(演:ロビン・ウイリアムズ)
博物館の展示物として飾られているろう人形。すぐに辞めて逃げ出そうとするラリーを優しく諭して思いとどまらせます。弁の立つ人格者ですが、片思いの相手には話しかけることもできず、ラリーにはっぱをかけられます。
★ジェデダイア・スミス(演:オーエン・ウイルソン)
アメリカ西部開拓時代のジオラマに展示されたミニチュア人形。でかいやつら(人間)にひどい目にあわされていると主張し、ラリーに喧嘩を吹っかけてきます。血の気が多いキャラではありますが、根はいい奴。ライバルのオクタウイウスと協力して博物館の仲間を守ります。
★ガイウス・オクタウィウス(演:スティーヴ・クーガン)
ローマ帝国のコロッセオのジオラマに展示されたミニチュア人形。ジェデダイアとはライバルで、常に争っています。ローマ帝国の軍人と西部開拓時代のアメリカ人が戦争を繰り広げる様は、ミニチュアがゆえに戦闘力も低く、微笑ましくすらあります。
感想
この映画を一言で表すと、『時代の時間軸を超越した奇跡の多国籍ファンタジー』です。様々な時代と国で活躍したとされる人物を模倣した人形たちが息を吹き返し、一同に会して『揉める様』は何とも滑稽で、思わず笑ってしまいます。
なるほど、これだけの『異文明の顔』を同じ舞台上に引っ張りだすにはこの設定しかないと、変に納得してしまいました。子供の頃歴史上の人物にあこがれて、本の挿絵を見ながらこの絵が動き出してくれないかなあ・・などと思いをはせた経験があれば、にやにやせずにはいられない映画です。
そして、もちろん主人公のラリーが子供達のヒーローになっていく過程も見逃せません。持ち前の『すぐに仕事を辞めてしまう』性格を克服し、荒くれ者たちを束ねて経営難に陥っていた博物館を立て直す(偶然ですが)というシナリオが、安心感のあるストーリーとして純粋に楽しめます。
大人だって落ち込むことも多い現実の世界。悩み事から少し目を逸らして、頭を空っぽにして笑ってみよう――。そんな気分の時にお勧めしたい、ハッピーエンドな映画です。