メリーポピンズとメアリーポピンズ 二人の世界を行き来したら2倍楽しい魔法の世界

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二人のメアリー。言わずもがなのウォルトディズニー制作『メリーポピンズ リターンズ(他一作あり)』とP.l.トラヴァース著作の『風に乗ってきたメアリーポピンズ(他7作)』の主人公です。

ウォルトディズニーが1964年に発表した、前作『メリーポピンズ』が、原作とまるで違う出来栄えになったために原作者トラヴァースの不評を買い、その後の映画化を難航させたのは有名な話です。子供の頃から原作に親しみ、トラヴァースを敬愛してやまない私も、映画『メリーポピンズ』を観て大変驚きました。まるで原作とは別物だったからです。ですので、トラヴァースの心情は察してあまりあります。それでも敢えて今回は、二人のメアリーを同じ位の熱量でお話したいのです。その理由は後ほどお伝えするとして、さてまずは原作からご紹介していきます。

風にのってきたメアリーポピンズ(1934年イギリスで出版 トラヴァース著)

舞台となるのは、桜並木と公園に面した『桜町通り』。その通りの中でも一際小さくて古ぼけた家が、バンクスさん一家のお家です。バンクスさんは、ある時奥さんに、立派なお家と4人の子供とどちらがいいか尋ねたところ、奥さんは4人の子供が欲しいと答えたので、その小さなお家に住むことにしたのでした。奥さんの希望の通り、長女のジェイン、長男のマイケル、そして双子の赤ちゃんのジョンとバーバラに恵まれたバンクス家は、東風の強いある日、乳母を募集しました。『風にのって』やってきたかに見えたメアリーポピンズは、子供たちに『風が変わるまでは』一緒にいると約束します。メアリーがきてからというもの、子供達は幾度となく不思議な世界へと紛れこむようになります。

不思議なコリーおばさんのお店で買ったジンジャーパンに付いていた「金色の紙でできた星」が、夜空に糊でペタペタと貼られるのを目撃するし、満月の夜に「誰か」に導かれ訪れた動物園では、檻に入れられた人間を動物たちが鑑賞しているのに驚かされます。

そして、その不思議な世界で知り合った人や動物たちは、ジェインやマイケルに、「いつまでも忘れたくない素敵なこと」を教えてくれるのです。

ですが、最初の約束通り、メアリーとの楽しい時間には期限がありました。とうとうメアリーとの別れが訪れます。風が変わったある日、メアリーは『オー・ルヴォワール』という言葉を残して去っていきます。フランス語で、『また会いましょう』という意味です。同じフランス語に『アデュー』という単語があるのですが、これは永遠の別れを示唆し、次に会うことがあまり期待できない言葉です。子供達は、メアリーが『すると言ったことをする』人だとわかっているので、オー・ルヴォワールという言葉の意味を知って安心して日常に戻っていきます。


作者P.L.トラヴァースから見た「メアリー」ってどんな人?

出典元:ebookstore.sony.jp

1899年生まれのトラヴァースは十代の頃から新聞や雑誌に寄稿していましたが、子供の本を書いたのはメアリーポピンズが初めてのようです。最初の作品を発表したのは作者が35歳の時。

メアリーは著作の中で、少しシニカルな態度をとる人のように描かれています。バンクス家の人々には『鼻をフンと鳴らし』、ちょっと皮肉な物言いをします。ですが、バンクス家の人々は、メアリーがいてくれて本当に良かったと『それぞれの理由で』考えるのです。なぜならメアリーは、メアリーを必要としているまさにその時、さも偶然のように『必ずそこに居てくれる』から。

作者にとってのメアリーも、そんな存在だったのではないでしょうか?

そして、この物語のもう一つの見どころは、メアリーの友人たちの心温まる言動です。それは、例えばこんなことです。

メアリーの誕生日と満月が重なった夜、いとこのキングコブラがみんなの前でお祝いの言葉を述べるのですが、その時ジェインとマイケルにこんな世界観を伝えます。

傍から見たら敵同士に見えたとしても、みんな同じものからつくられている。ジャングルの住人も、町の住人も、みんな同じ物質が私たちをつくりあげている――――大人も子供も・・・。

あるいは、クリスマスの贈り物を探しに来た「空に住んでいる少女マイア」は、クリスマスで大事なことは、「お金を払う事」ではなく、「ものを贈ること」と言って去っていきます。

メアリーの「不思議なお友達たち」は、『それはそうなんだけど、ついつい忘れてしまいがちな事』を、改めて伝えてくれます。

こんな素敵な人や動物、そして「いろいろな不思議なもの」に囲まれて存在しているメアリーは、やっぱり周囲を引き付けてやまない魅力的な人なのです。


ウォルトディズニー制作『メリーポピンズ』(1964年アメリカ)

出典元:wowow

1910年、ロンドンの桜町通りに住むバンクス一家から、乳母が逃げ出すように辞めてしまったところから物語は始まります。バンクスさんは厳格な銀行家で忙しく、子供の気持ちをじっくり聞いてやる暇も余裕もありません。一方、女性参政権運動に熱心なあまり子供の世話ができない奥さんは、子供の話に聞く耳は持っていますが、バンクスさんに逆らってまで子供を守ることは出来ません。

そんな大人たちの出した広告ではなく、子供達が書いたけれど大人に破り棄てられた『乳母募集』の広告の紙きれを持って現れたのが、メリーポピンズです。

自分は子供達の求める乳母像にピッタリだとバンクスさんに告げ、メリーはすぐに子供達に会いに行きます。

軽快なリズムで次々と不思議な現象を巻き起こすメリーに、子供達はすっかり魅了され、家の中の空気も明るく一変していきますが、バンクスさんはなぜかそれが気に入りません。ある日、バンクスさんは自分の『働く姿』を見せ、大人の世界の厳しさを認識させるため、子供達を銀行に連れて行きます。

子供たちは、そんなことより本当は寺院の前で2ペンスで売られている鳩の餌が買いたかったのですが、銀行の老頭取がその2ペンスを取り上げ、銀行に預金させようとしたその時・・・。

大事なお金を取り上げられ、子供たちが『返して!』と叫んだことから、銀行内は大騒ぎになります。子供の叫びを聞いた預金者が、銀行が倒産するのではないかと勘違いして払い戻しに殺到したのです。事態の深刻さに打ちのめされたバンクスさんですが、子供の責任は自分がとる、とみんなの前で宣言したとたん・・・。

まるで悪い魔法から解けたかのように、バンクスさんは軽々といろんなことを乗り越え、大人も子供も一気にハッピーエンドへと向かっていきます。ディズニーの魔法がここでバンクス家に降りそそぐのです。そして、ディズニーのメッセージがそっと観客の心に問いかけてきます。


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ウォルト・ディズニーがその夢を託した「メリーポピンズ」とは?

出典元:eiga.com

さて、ウォルトディズニー制作の『メリーポピンズ』のメリーは、明るく優し気で、活発だけれどどこかはかなげな女性として描かれています。原作とは対照的な人物像です。原作のメアリーがシニカルな表現をする人、というのであれば、映画のメリーは『まっすぐな表現をする人』です。

バンクス家にメリーがやってきたところからこの映画は始まりますが、物語は途中からメリーの親友のバートが軸となり、クライマックスへと展開していきます。バートは本来「脇役」なのですが、どうやらディズニーはバートを影の立役者として台本化したようです。メリーの人物像が違う、とか、バンクス家の奥さんが原作では描かれていない『女性参政権の運動に熱心な人』であるとか、それすらもはるかに超えて原作との乖離が、バートをキーマンとして物語が進んでいく事により始まります。最後には原作者でなくともビックリしてしまう展開となっているのです。

映画が公開された1964年当時、アメリカでは女性解放運動、いわゆるウーマンリブというムーブメントが起こっていた年代です。その運動はアメリカ国内にとどまらず、やがて日本も巻き込む世界のムーブとなっていきます。そんな背景の中、映画は大変メッセージ色の濃い作品となっています。ですが、ウォルトディズニーが世に問うたこの作品の中のメッセージは、原作と関係のないものです。この映画の根幹にあるものが原作で触れられてはいないテーマであるという点で、まるで別物となっているのです。

この映画は「メアリーポピンズの登場人物表と一つ二つのシチュエーションを与えられた別の作家がその人の個性で描いた別の世界」という視点で観ると、とても面白い映画です。

いかにもアメリカらしい、気障だけど観客の心を一瞬でとらえるセリフ、これでもかという位分かりやすく登場人物の心理を表現している衣装。役者のダイレクトな表情の変化。ザ・アメリカであり、そのダイナミックな演出が、やはり魅力満載な映画なのです。

ウォルトディズニー制作『メリーポピンズ リターンズ』(2018年 アメリカ公開)

出典元:cinematoday

2019年2月、ウォルトディズニー制作のメリーが再び日本にやってきます。『メリー・ポピンズ リターンズ』。

予告で観る限りは、もちろん原作とはかけ離れたディズニー作の『メリー』です。バンクス家の子供達、ジェインとマイケルが大人になっているというところから、物語が始まります。家族に悲劇が起こり、明るさを失っていたバンクス家。そこに現れたのが、時を経ても若さを失っていない、あの頃のままのメリーポピンズでした。

『あなたは歳をとらないの?』当時子供でしたが今は大人となったマイケルが思わず声を上げます。

出典元:cinemacafe.net

するとメリーは・・・

『女性に年を聞くもんじゃありません』とぴしゃりと返します。

『私の教育があまかったかしら』(セリフのみ日本語字幕版予告編抜粋)

今回のメリーは、もしも作者が観たとしたらどのように感じるでしょうか。前作から50余年経て発表されたこの映画も、暗いイントロから始まって、ディズニーの魔法により明るい結末へと導かれる展開を想像させる美しい映像です。

原作との共通点は乳母であるメリーが不思議な魔法を使える人、という事だけかもしれませんし、そうではないかもしれません。どうであれ、もちろん私は喜んで、いそいそと見に行きます。

このスタンスは、トラヴァースが初作で私に教えてくれたことです。

ある日外出先から帰ってきたメアリーに、マイケルが聞きます。

『どこに行ってたの?』
『おとぎの国』と、メアリー。
『シンデレラにあった?』とジェイン。
『まさか』メアリーは言います。
『そんならどうしておとぎの国なの?僕たちのおとぎの国じゃ、ありっこないや』
そこでメアリーはフンと鼻を鳴らして言います。
『誰だって、自分だけのおとぎの国があるんです』


(上記『』内のセリフについて『風にのってきたメアリーポピンズ』より抜粋)

私はメアリーのこの一言でメアリーが、そしてトラヴァースが大好きになりました。トラヴァースにはトラヴァースのメアリーが、私には私のメアリーがいていいのです。そしてウォルトディズニーにはウォルトディズニーの考えるメリーがいてもいいのです。

出典元:cinemacafe.net

ちなみに前述したメアリーと大人になったマイケルの会話のシーンですが・・・。私のメアリーでしたらこう言います。

『物知りやさんのマイケル、あなたに教えることなんて何にもないと思っていたわ』

トラヴァースの及第点はもらえるセリフでしょうか?永遠に添削してもらえないのがとても残念です。

さて、ディズニーの映画には、もう一作トラヴァースに関連する映画があります。それは2014年に公開された『ウォルト・ディズニーの約束』(邦題)(アメリカでは2013年公開)です。

『メリーポピンズ』の制作秘話として発表しているこの作品は、映画化に難色を示すトラヴァースと、なんとしても映画化にこぎつけたい〝ビジネスマン〟としてのウォルトディズニーの、丁々発止のやり取りを描いた物語です。トラヴァースの没後に描かれた作品ですので、真相はだれにも判断できませんが、トラヴァースの生い立ち等の描写は、言葉に尽くせない迫力があります。

映画の『メリーポピンズ』を観て原作との違いにビックリされた方は、こちらを観ると点と点が少しつながるかもしれません。


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帰ってきたそれぞれのメアリー。原作のメアリーも、映画のメリーも、他の誰かのメアリーも、きっと私は大好きになるでしょう。リターンズの日本公開がとても待ち遠しいです。